建物と神様
家とは単なる建築物ではありません。古くから、日本人は、お正月には歳神さま、お盆には祖先の御霊を家にお迎えする伝統を大切にしてきました。家とは神さまをお迎えする特別な場所でもあるのです。また、家を建てるときには、工事の無事や安全を神さまに祈る神事が行われます。それは長い時間を経て現在に伝えられ、ビルや工場などを建てるときも同じように行われます。「地鎮祭」、「上棟祭」、「竣工祭」など、私たちは節目ごとの祝いを神さまに感謝し、喜びをともにしてきたのです。

地鎮祭
「とこしずめのまつり」や「じまつり」ともいわれ、もっとも一般的で重要な建築のお祭りです。工事をはじめる前にその土地の神さまにご挨拶し、土地を祓い清め、これから行われる工事の安全と変わらぬ守護を願うお祭りです。建主のほか工事関係者も参列し、敷地のなかに祭壇を設け、お供物をし、その土地の神さまをお迎えします。最近では式典としての「起工式」のみ行われることもありますが、神さまをお迎えして行われる「お祭り」であることに意義があるのです。地鎮祭は生涯の思い出のまつりで、あなたやご家族の生命や財産を守る大切な家のためにする、一度限りのおまつりです。大工さん・職人さんにとっても安心して工事を行うために大切な行事で、千年以上前から行われている行事です。

地鎮祭次第(例)
主にご用意いただくもの
一
神饌(建主)
神社で用意いたしております
二
初穂料(建主)
参萬円
三
その他(施工者、建築業者)
青竹、注連縄、盛砂
※雨天時にはテントの御準備をお願い致しております。
諸事情により準備できない場合は、別途壱萬円にて神社で御準備させていただきます。

1 修祓(しゅばつ)
参列した人やお供物を祓い清めます。

2 降神(こうしん)
神籬に神さまをお迎えします。
3 献饌(けんせん)
神さまのお食事である神饌をお供えします。
4 祝詞奏上 (のりとそうじょう)
氏神さま、土地の神さまに工事することを奉告し、お祈りの言葉を申し上げます。
6 刈初(草刈初)・穿初(うがちぞめ)
土地に鎌(設計者)・鍬(建主)・鋤(施工者)を入れます。

5 四方祓(しほうはらい)・切麻散供(きりぬささんく)
土地の四方を祓い清めます。

6 刈初(草刈初)・穿初(うがちぞめ)
土地に鎌(設計者)・鍬(建主)・鋤(施工者)を入れます。

7 玉串拝礼(たまぐしはいれい)
玉串をお供えして拝礼します。

8 撤饌(てっせん)
お供えした神饌をお下げします。
9 昇神(しょうしん)
お迎えした神さまをお送りします。
10 神酒拝戴(しんしゅはいたい)
お供えした御神酒をいただきます。

上棟祭
「たてまえ」「むねあげ」ともいわれ、柱がたち、棟木を上げる際に行われるお祭りです。地鎮祭では土地の神さまをお迎えしましたが、上棟祭では建物の神さまや匠の神さまをお迎えします。それらの神さまと氏神さまを記した棟札を中央の柱に貼り、棟木には上棟幣を建て、魔よけとして弓矢などを飾り、曳綱の儀(棟木を棟に曳き上げる)、槌い打の儀(棟木を棟に打ち固める)、散餅銭の儀(お餅や小銭などを撒く)を行うことが多いようです。ご近所の方々に、小銭やお餅などをふるまい、直会では、建主が工事関係者の労をねぎらいます。上棟祭は、建主と工事関係者、ご近所の方々との交流の場でもあるのです。

竣工祭
建物が完成し、入居するにあたり行うお祭りです。新築した建物を祓い清め、神さまに無事完成したことを奉告し、建物が末永く丈夫であること、そこに住む人々が繁栄することをお祈りします。最近は、地鎮祭のみ行い竣工祭を省くことが多くなってきたようですが、地鎮祭から工事を見守っていただいた氏神さまに、無事の完成を奉告するのも大切なことです。

また、工事にあたっては、近隣の人々もあたたかく見守ってくださったことでしょう。建物のお披露目とともに、神さまや工事関係者、ご近所の方々に感謝の気持ちをあらわし、気持ちよく新生活をはじめたいものです。
Q&A
こんなときはどうするの?
Q 中古住宅を購入したのですが、建てた人がちゃんと「地鎮祭」をしたのか心配です。
A 地鎮祭をはじめ一連の儀礼は、その建築過程における節目のお祭りです。すでに建物が建っている場合は、氏神さまの神社に依頼して土地と家屋を祓い清め、神棚を設けてお神札をまつり、平穏無事をお祈りしましょう。
Q 「地鎮祭」をせず、「上棟祭」や「竣工祭」だけを行うことはできますか?
A 地鎮祭は、その土地の神さまをおまつりすることで、工事の安全と生活の平安を祈願する意味があります。建築儀礼の中でも地鎮祭は重要なお祭りと考えられていますので、先ずその土地の神さまをまつる地鎮祭から行うべきでしょう。
Q 事務所を新規に開設しました。どのようなお祭りをすればよろしいでしょうか。
A 事務所の安全と事業の繁栄とを祈念し、開設にあたっての清祓を受けることがよいでしょう。また、神棚を設置し、お伊勢さま(伊勢の神宮)、氏神さまのお神札をおまつりしましょう。
Q 氏神さまを選ぶことはできますか?
A 氏神さまは、皆さんが暮らす地域を守ってくださる神さまのことをいいます。別の地域の氏神さまを選ぶことはできません。氏神さまの他に崇敬する神社をお持ちの方は、その神社のお神札をお伊勢さま、氏神さまとともに一緒におまつりするとよいでしょう。
Q 引越ししたら、氏神さまはかわってしまうのでしょうか?
A 引越しをした場合、氏神さまは新しい地域の神社になります。お神札は新しい氏神さまから受けて神棚におまつりします。前の氏神さまのお神札もその年が終るまでは一緒におまつりし、新しい氏神さまでお焚きあげしていただきます。これまでお守りいただいた感謝の気持ちを持ちつづけていたいものです。
Q 知人から地鎮祭に招かれました。何を持参したらよいでしょうか?また、服装はどうしたらよいのでしょうか?
A お酒などをお供えするのが一般的です。服装はスーツなどがふさわしいのですが、参列にあたり失礼の無いよう心がけましょう。
氏神(うじがみ)さまと産土神(うぶすながみ)さま
もともと氏神さまは血縁関係のある一族の神さま、産土神さまは生まれた土地やその地域の人々を守ってくださる神さまとされていました。今日では、そうした区別をあまりせず、私たちが住んでいる地域や人々を守ってくださる神さまを氏神さまと呼んでいます。
大地主神(おとこぬしのかみ)さま
大地主神さまとは、その土地をお守りくださる神さまです。私たちは土地や建物の売買を行いますが、その土地は大地主神さまにお守りいただいているのです。だからこそ、大切にしたいものですね。
匠の神さま
上棟祭でお迎えする、屋船久久遅命(やふねくくのちのみこと)と、屋船豊宇気姫命(やふねとようけひめのみこと)は建物の神さま、手置帆負命(たおきほおいのみこと)と彦狭知命(ひこさしりのみこと)は工匠の神さまです。「八百万の神の国」と言われる日本には、色々な神さまがいらっしゃいます。どんな神さまがいらっしゃるのか調べたら楽しいかもしれませんね。

直会(なおらい)
「直会」とは、神さまにお供えしたお神酒や神饌をいただくことです。神さまが召し上がったお酒や食べ物を、お祭りに参列した皆さんで、ともにいただくことで神さまのお力を授かります。直会は、お祭りをしめくくる大切な儀式なのです。
神饌(しんせん)
神さまへのお供え物のことで、神さまのお食事です。
神籬(ひもろぎ)
榊に紙垂をつけたものが一般的で、神さまをお迎えする場所(依代)となります。
榊(さかき)
生命力あふれる常緑樹には神さまが宿ると考えられ、古くから神事に用いられてきました。神さまと私たちとの境を示す「境木」、栄える「栄木」が転じたともいわれます。
注連縄(しめなわ)
そこが神聖な場所であることを示すものです。大根のような形をした「大根注連(だいこんじめ)」、牛蒡のように細い形の「牛蒡注連(ごぼうじめ)」があり、紙垂を挟み込んで使います。神棚に大根注連を張る場合は、一般的に向かって右側に太いほうがきます。

玉串(たまぐし)
榊などの常緑樹の小枝に紙垂を付けたものです。神さまに拝礼するさい、玉串に真心を込めて捧げます。

祝詞(のりと)
儀式にあたり、神職が皆さんに代わって神さまに申し上げる言葉です。神さまをたたえ、お祭りの趣旨や皆さんのお名前と願い事などをお伝えする内容になっています。